ある日、ねこの頭の上に小さな小さな木が生えました。ねこは水がきらいだったので、おふろに入らなかったからです。ねこの頭についたどろにぐうぜん種が落ちて、それが生えてきてしまったのでした。
「なんてことだ。ぼくのきれいな頭にへんな木が生えてきてしまった」
そうは思いましたが、ねこはものぐさだったので気にせずにまたねそべっていました。
さんさんとかがやくたいようの光を浴びて木はやがて大きくなり、小さな赤い実をつけました。その実はとてもおいしそうだったので一つ食べてみました。あまくて、とろけるようです。しかし赤い実はたくさんなっていたので、ねこひとりでは食べきれませんでした。
そんな時、おいしそうなにおいにさそわれた小鳥さんたちがやってきました。
「ねえ、ねこさん。木の実を少しわけてくださらないかしら」
「でもこれはぼくに生えたものだしなあ」
木の実はとてもおいしいので、小鳥さんたちにあげるのはもったいないと思いました。
なにより小鳥さんたちの数が多かったので、すべて食べられてしまわないか心配だったのです。
そんなようすのねこを見て
「こんなにおいしそうな実ははじめてなんです。きっとねこさんの頭の上に生えているからね。すごくりっぱだわ。とてもおいしそう」
ほめられて悪い気はしません。
「なんといってもこのぼくの頭の上に生えたものだからね。仕方ないから分けてあげるよ」
えっへんとむねをはって言いました。
こうして大きな木には小鳥さんの集まるいこいの場になったのです。遠くからその木を目印にやってくる小鳥さんたちは、赤い実をつついておしゃべりをして、また遠くに飛ん でいきます。
ねこもそんな小鳥さんたちの話を子守歌にしてねそべっていました。
大きな水たまりと白い砂の話。小高い丘の上のキラキラひかるおひさまの話。いろいろなお話をしては彼らは飛び立っていきます。
そんな遠くからやってきた小鳥さんたちの体についた種や葉っぱが、ねこの上に落ちやがてそれは小さな芽を出しました。白い花、黄色い花、水色の花。だれも見たことのないようなめずらしく、きれいなお花になってさきほこるようになりました。
ねこはおやつに花のミツをチュウチュウすいました。とてもあまくて幸せな味がします。
そんなお花をもとめて、はちさんたちが飛んできました。
「ねえ、ねこさん。お花のミツをすわせてくれないかしら」
「でもこれはぼくに生えたものだしなあ」
花のミツはとてもおいしいので、ねこはハチさんたちにあげるのはもったいないと思いました。なによりはちさんたちにミツをすべてすわれてしまわないか心配だったのです。
そんなようすのねこを見て
「こんなにおいしそうな花ははじめてなのよ。きっとねこさんの頭の上に生えているからね。すごくきれいだわ。とてもおいしそう」
ほめられて悪い気はしません。
「なんといってもこのぼくの頭の上に生えたものだからね。仕方ないから分けてあげるよ」
えっへんとむねをはって言いました。
ぶんぶんと飛び回るハチさんはやがて大きな木の上に巣を作りました。花のミツをすったはちさんたちはお礼にかわいいダンスを見せてくれました。指揮棒をふるったはちさんにあわせて
いち に いち に
みんな足並みをそろえていっしょうけんめいダンスします。それを見てねこは手をたたいてよろこびました。
ねこの頭の上はどんどんゆたかになっていきます。最初は小さい一本の木しかなかったのに、やがて木はふえ、花もふえていきます。
次にやってきたのは茶色い実をもとめて旅をしているさすらいのリスさんでした。リスさんは言います。
「このもりにわたしのもとめている茶色い実があると聞いてきたのだが」
ねこは首をかしげました。
「もり?」
のんびりとねてばかりいたねこの頭の上は、すっかり木や花におおわれてもりになっていたのでした。
「そうだ。ここはもりだろう。わたしもいままで見たことのないくらいとてもりっぱなもりだ」
「なんといってもこのぼくの頭の上にはえたものだからね。きみもほしいものがあったら仕方ないからわけてあげるよ」
ねこはむねをはって言いましたが、リスさんは首をふりました。
「何を言っているんだ、ねこさん。もりというのはみんなで分け合うものだ。だれかのものではないんだぞ」
「ちがうよ。このもりはぼくの頭の上に生えたんだ。だからぜんぶぼくのものだ」
「そうか。それはざんねんだ」
そう言ってリスさんは去っていきました。
ねこはなんだかむねがもやもやしましたが、きっとりっぱなねこのもりをうらやんで言ったのだろうと思ってわすれることにしました。