最初、小さな小さな一本の木しかなかったねこの頭の上は、今ではりっぱなもりになっていました。そうしてたくさんの動物たちもあつまってきました。
動物たちはみんなねこのことを口々にほめて、いろいろなものをほしがりました。
その言葉に気をよくしていたねこですが、ふとリスさんの言葉を思い出していやな気分になるときもあります。
なんだかねこのもりの住人たちは、ねこをのけものにして楽しんでいる気がしたのです。 
あまい木の実も、かわいらしいお花も、大きくてりっぱな木も、すべてねこの頭の上に 生えたものです。このもりはねこのものなのです。ねこはだんだんとこの森を独り占めしたいと思い始めました。

ある日、ねこの森の住人たちがいつものように楽しそうに遊んでいると、ねこはきゅうにさけびました。
「ここは、ぼくの頭の上にあるのだから、ぼくのもりだ。みんな出て行ってくれないか」
ねこの森はちいさいながらも住みやすかったので、なかなか出ようとはしませんでした。 
そもそもねこはちゃんと分けてくれると言ったのですから、みんな口々に文句を言いました。
「ちゃんと分けてくれるって言ったじゃない」
「どうしてきゅうにそんなことを言い出すんだ」
「ひどいわ。あんなにほめたのに」
しかしねこがおこって頭をゆらすのでみんないずれいなくなりました。
ねこはこれで自分のものになったと満足しました。しばらくは花をつんで楽しんだり、甘い実を食べたりして楽しく過ごしていましたが、しばらくするとなんだか物足りなくなってきました。小鳥さんたちのさえずりも、はちさんのダンスも、みんなの楽しげな声もしない小さな森はひどくさびしく思えました。
「いいさ別に。もともと一人だったんだ」
そう思っても、みんなが恋しくてたまりません。どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。ねこはこうかいしました。
やがて木はかれ、花はしおれ、もりはさびしいものになってしまいました。もりは、たくさんの住人たちによって支えられていたからりっぱだったのです。だれもねこを見向きもしなくなり、そうしてねこはひとりぼっちになりました。
ねこは泣きました。
うわん うわん
と大きな声をだして、ずっとずっと泣き続けました。
するとどうでしょう。なみだはやがて大きなみずたまりになり、たいようにてらされて天にのぼっていきました。そうしてその水は雨となって、また天からふってきたのです。
雨はねこのかれたもりの上にふりそそぎました。ひさしぶりに水をあびて、かれていたと思っていたはずの木や花がまた息を吹き返したのです。ねこのもりはまたあっというまに青々とかがやきだしました。そうしてまたりっぱなもりになったのです。

 

しばらくすると、あのときのさすらいのリスさんがやってきました。その横にはまだちいさな子どものリスさんがいます。どうやらぐったりしているようです。
さすらいのリスさんはとてもこまったような顔をして
「ねこさん。すまないがこのりっぱなもりにある茶色の実を分けてはくれないだろうか。この子に食べるものをあげたいのだ」
前にリスさんに言われたことを思い出して調子に乗ったねこは
「ぼくの森だぞ」
そう言いかけて、やめました。
たしかにこの森はねこの頭の上にあるけれど、一本の木しかなかったところが大きなもりにまでなったのは他の住民たちのおかげだと思い直したからです。
「もちろん。かまわないよ。なんといってもこのもりは、みんなのもりだからね」
茶色の実をたべて元気になった子どものリスはねこのもりの住人となって楽しく遊び始めました。
そんな楽しそうな彼らのようすを見てまた一人、一人と住人たちは戻ってきたのです。
またにぎやかになったねこの森で、ねこはみんなと楽しく暮らしましたとさ。おしまい。

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